丸岡内科小児科クリニックでは福岡市東区千早近郊のかかりつけ医として
皮膚科・内科・小児科担当医が適切な診療・処方を行います
この10年間の糖尿病治療の進歩は画期的で、新しい優れた薬剤と新しい考え方の食事療法、運動療法を組み合わせることによって、以前では望んでも得られなかった良好な血糖コントロール(健康な人と同じ正常な血糖レベル)が可能になっています。すなわち、糖尿病の患者さんが、高血糖も低血糖も起こさず、一日中、安定した正常な血糖で過ごせることが現実のものとなっています。現在、糖尿病に関して、さまざまな議論が学会やマスコミの中で行われていますが、糖尿病に関しては「誰が正しいか」ではなく、「何が正しいか」を理解下さることを願っています。当院へ通院した患者さまが一番喜んで下さり、我々に伝えて下さるのは、「とても嫌な重い低血糖発作が起きなくなり、生活が楽になりました。しかも、HbA1cも改善しています。」という声です。
アメリカのリチャード・バースタイン博士は12歳で毎日インスリン注射を必要とする1型糖尿病を発症し、緻密な自己血糖測定と考察で、炭水化物制限やインスリンの無痛注射など優れた治療法を開拓し、75歳の現在も現役で、開業医として働き、マラソン大会にも出場し、合併症も起こさず健康を保っています(血糖は常に90mg/dl、HbA1cは常に4.5%にコントロールしているそうです)。バースタイン博士が著書の「糖尿病の解決」で述べている通り、「健康な人と糖尿病の人との唯一の違いは血糖が正常であるか否か」だけです。血糖を正常にする(高血糖も低血糖も起こさない)治療が正しく、そうでない治療は間違っています。
糖尿病で長年使用されてきた血糖降下剤であるスルフォニルウレア薬(SU薬)は食後の高血糖を是正できず、低血糖を起こしやすいことから、網膜症や動脈硬化など糖尿病の合併症をかえって悪化させうる危険があります。SU剤を主とした糖尿病の治療はイギリスのUKPDSという研究で、通常の標準治療では脳梗塞や心筋梗塞の発生率が減らすことができないことが証明されました。アメリカで行われた別の研究では、SU剤を主として治療を強化すると、低血糖が頻発して、低血糖による酸化ストレスから、動脈硬化や合併症がかえって増加することが証明されました。
食事療法では、「カロリーが血糖を上げる主たる原因である」ということを前提にしてカロリーコントロール法を長年行ってきましたが、「カロリーが血糖を上げるのではなく、炭水化物に含まれる糖質が血糖を上げる主たる原因である」ということが証明され、食事療法を根本的に見直す動きが広まっています。インスリン注射を行う患者さんたちが経験的に生み出した「カーボカウント法」(摂取した炭水化物の量を計算して、インスリン注射の量を決定する)が普及しつつあり、さらに糖質摂取量を制限すべきかどうかが大きな問題になっています。
最近は低血糖による生命の危険がない安全な薬剤が開発されて、治療を行う上で大いに役立っています。ビグアナイド薬のメトフォルミン(メトグルコ)というお薬は、自分自身の体内(膵臓)で作られるインスリンの働きを良くして、血糖のコントロールを改善することによって、インスリンを産生する膵臓β細胞の負担を減らし、保護することができます。そして、低血糖の危険がなく、肥満を改善し、癌の発生を減らすなどの優れた効果を合わせ持ちます。ビグアナイド薬は腎不全など進行した腎機能障害がある患者さんでは使用できません。α-グルコシダーゼ阻害薬(セイブル、ベイスン、グルコバイ)というお薬は、腸での炭水化物(糖質)の吸収を緩徐にすることによって、食後の急激な高血糖を緩和する作用があり、膵臓β細胞の負担を減らします。そして、食後の高血糖を緩和することで、動脈硬化を防ぎ、心筋梗塞や脳梗塞を10分の1以下に減らす優れた予防効果があります。軽症の糖尿病や、メタボリック症候群で糖尿病予備軍である患者さんが服用すると、本格的な糖尿病に移行するのを防ぐ作用も持っています。α-グルコシダーゼ阻害薬はお腹が張る、下痢、便秘、ガスが多くなるなど腹部の副作用が多いです。また、まれに肝臓に影響が出ることがあるので、定期的に血液検査が必要です。食事療法と低血糖の危険のないマイルドな治療薬(α-グルコシダーゼ阻害薬、ビグアナイド薬)だけでは、コントロールが不十分な患者さんには、血糖降下作用のある薬剤の中で、比較的マイルドなDPP4阻害薬を併用します。DPP4阻害薬は低血糖の危険がありますが、本格的な血糖降下剤であるSU薬やグリニド薬と併用しなければ、重篤な低血糖になる可能性は極めて低く、安全性の高い薬剤です。DPP4阻害薬は長期間服薬すると膵臓β細胞の力が回復してくる可能性があります。マイルドな血糖降下作用があり、血糖コントロールをある程度改善します。しかし、食事での味覚に影響が出る副作用があり、SU薬と併用すると重篤な低血糖が起きることがあります(SU薬との併用は禁忌とすべきです)。また、まれに肝臓に影響が出ることがあるので、定期的に血液検査が必要です。
食事療法を①従来のカロリーコントロール食(守備的治療)、②治療効果の高い新しい食事療法である本格的な「糖質制限食」(攻撃的治療)、③導入しやすく、長期間続けやすい「緩やかな糖質制限食」(中間的治療)、④欧米で新しく採用された「地中海食」(中間的治療)の4通りの中から患者さま自身に合った食事療法を選択します。当院では独自にアレンジした食事療法として、「糖質制限食」および「緩やかな糖質制限食」の弱点を補うため、地中海食の要素を取り入れた、「糖質制限食+地中海食」、「緩やかな糖質制限食+地中海食」を勧めています。特に、比較的若い方、肥満を合併している方はお勧めです。新しい食事療法とマイルドな内服薬1~3種類の組み合わせで、大半の方が低血糖の危険なく、糖尿病学会のコントロール目標HbA1c 6.0未満を達成できています。
インスリン注射薬も新しく優れたものが開発されています。12~24時間平均的に効果が持続して、低血糖の危険が少ない持効型あるいは超持効型インスリン(レベミル、ランタス、トレシーバ)が登場したおかげで、インスリン強化療法が劇的に改善しました。従来の速効型および超速効型インスリンと組み合わせて使用し、低血糖がほとんどなく、より安全で、より強力な治療が可能となっています。本格的な「糖質制限食」を選択した患者さまでは超持効型インスリンだけで治療可能で、重篤な低血糖も高血糖も生じず安定した良好な血糖コントロールが可能となっています。 糖尿病に対応できるクリニックでは、教育入院を行う病院と同様に、医師、糖尿病療養指導士の資格を持つ看護師、管理栄養士、薬剤師、運動療法士、(臨床心理士)が対等の立場でチームを組んで、毎回、交代で協力しながら、1人の患者さんの診療を行い、外来通院のみで、教育入院と同等のレベルの治療(インスリン注射の導入など)を提供することが可能です。そして、チーム全員が一流病院での研修と学会や講演会での勉強で、糖尿病に関しては医師と同等の高度な知識を持ち、最新の治療を提供することが理想です。
人類は農耕によって、飢餓の危険から解放され、文明や文化の発展を得たが、食後高血糖という重荷を新たに背負った。何もかも都合の良い完全な食事療法は現時点では存在しない。現行の標準食事療法であるカロリー制限+脂質制限(+蛋白制限)は高GI糖質の摂取が全エネルギーの50~60%と多く、食後高血糖が避けられない。 そのため、合併症の進行阻止には必ずしも完全には成功していない。ただし、食後高血糖が存在しても、脂質制限を行っているため、糖化コレステロールが増加することはある程度阻止できている。また、タンパク質も摂取カロリーの20%に抑えているため、食後高血糖が存在しても、糖化タンパクや終末糖化産物(AGE)が増加することがある程度阻止できている。 しかし、標準食事療法であるカロリーコントロールは以下の欠点がある。①常に食後の高血糖が生じるため、膵臓を完全に休ませることができず、高血糖が続き、肝心の血糖コントロールは不十分なケースが多い。これに対して、最も頻用されている血糖降下剤を使用あるいは増量すれば、血糖は下がっても、低血糖発作が頻発し、低血糖による酸化ストレスから、合併症はかえって増加する。従って、不十分な血糖コントロールしか望めないことが多い。②カロリーコントロールはカロリー計算が複雑で、医療関係者自身でも食事療法を順守することは困難である。③カロリー設定が通常、健康人が摂取するカロリーよりも概してかなり低めで、少食を余儀なくされ、食事での満足感が少なくなる。そのため、長く続けるのが困難である。
糖質制限食は食後の高血糖を減らすことができ、食事療法単独、あるいは、低血糖の危険のないマイルドな薬剤(α-GI、ビグアナイド薬等)だけで、良好な血糖コントロールが得られやすい。そのため、血糖降下剤を使用しなくてよいので、低血糖の危険が無く、正常人と同様の良好な血糖コントロールが可能である。また、食後の高血糖が生じないため、食後のインスリン追加分泌が起きず、膵臓β細胞への負担が大幅に減り、膵臓β細胞を休息させることができ、膵臓β細胞のインスリン分泌能をある程度まで、長期的に徐々に回復させる可能性がある。そして、ダイエット効果は立ち上がりが早く、強力である。拒食症の危険が無く、成長に必要なカロリーや蛋白、カルシウムも豊富に摂取できるため、小児肥満症にも安心して適応できる。複雑なカロリー計算をしなくてよい点は続けやすい。また、高GI糖質を減らせば、歯のミュータンス菌が減るため、虫歯ができにくい。しかし、糖質制限食は以下の欠点を持つ。①糖質を制限すれば、必然、高脂肪食、かつ、高タンパク食になる。糖質制限をしても、血糖が完全に正常化されず、高血糖が持続すれば、糖化コレステロールが増加し、最終的には酸化された劣化コレステロール(超悪玉コレステロール、スモールデンスLDLコレステロール)が増加して、動脈硬化などの合併症が進行する。また、同様に、糖化タンパクが増加し、最終的にはAGE(終末糖化産物、糖化タンパクの最終型)が増加して、腎症や網膜症、神経症、アルツハイマー病などの合併症が進行する。従って、糖質制限食を安全に長期間続けるためには完全血糖正常化が必須である。すなわち、血糖が正常でない患者さんは糖質制限と相性の良い内服薬や注射薬で補助して、血糖が正常化することが必要不可欠である。②高齢者など米の食事に強い愛着がある患者様、麺類やパン、フルーツ、砂糖菓子などの糖質が好きな患者様では継続するのが困難である(このような患者さんに対しては後述する「緩やかな糖質制限食」が良い適応である)。③販売店で、糖質以外の食品が少なく、食事の献立が単調になりやすい。また、糖質カット商品などは割高で、家計に響く。④特にアトキンス法など肉食主体だと、食物繊維が不足しやすく、便通異常や大腸癌の危険が出てくる。⑤同じくアトキンス法だと、新鮮な野菜摂取が少ないため、新鮮な野菜に含まれているビタミンやフィトケミカルという人体にとって必須の微量栄養素が不足する恐れがある。⑥高たんぱく食ではリンの摂取が多くなり、カルシウムが減少する恐れがある。ただし、③~⑥は治療側と患者側の協力と工夫で避けることも可能である。
糖質制限の変法として、1日当たりの糖質摂取量の制限を130g/日に緩めた、「緩やかな糖質制限」が近年、北里大学糖尿病センター所長の山田先生を中心として、提唱されるようになった。高GI糖質を1食あたり43gまで摂取を認めた方法で、患者さんにとって、導入しやすく、続けやすい方法である。欠点としては、ある程度の高GI糖質の摂取が続くため、食後の高血糖がある程度起きることが多いため、食事療法単独では、糖化コレステロールや糖化タンパクが増加する危険があり、低血糖の危険の少ないマイルドな薬剤(α-グルコシダーゼ阻害剤、メトフォルミン、DPP4阻害剤)を併用して、血糖の正常化を図ることが必須である点である。
地中海食はカロリー制限が必要であるが、オリーブオイルや魚油など良質な脂質中心にして、脂質を摂取する比率を全カロリーの35%と多めに設定しているため、タンパク質20%、炭水化物(糖質)45%と、マイルドな糖質制限でもあり、食後高血糖の程度は標準食であるカロリーコントロール食よりも緩和されている。ただし、高GI糖質が摂取する全エネルギーの45%だと、有意な食後高血糖が生じ、膵臓にもそれなりの負担がかかる。しかしながら、オリーブオイル(ω-9系、オレイン酸)や魚油(ω-3、EPA、DHA)は酸化されにくい不飽和脂肪酸であり、糖化コレステロールが酸化されて、劣化コレステロール(スモールデンスLDLコレステロール、超悪玉コレステロール)が増加するのを防ぐ作用がある。また、ダイエット効果も糖質制限に次いで大きく、動物性脂肪と異なり、中性脂肪になりにくいため、体内に脂肪として付きにくい。そのため、動脈硬化も進行しにくい。
糖質制限食の弱点は、血糖が正常化しないと、高脂肪食の欠点である糖化コレステロールや劣化コレステロールが増加する危険が増すこと、高たんぱく食の欠点である、糖化タンパクやAGEが増加する危険が増すことである。その欠点を補うため、糖質制限で血糖が正常化していない症例に対しては、地中海食の要素を取り入れた、糖質制限食+地中海食が有力な修正案になると期待される。特に糖質量を減らさず、食後高血糖が残存する緩やかな糖質制限では有力である。
糖質制限食