丸岡内科小児科クリニックでは福岡市東区千早近郊のかかりつけ医として
皮膚科・内科・小児科担当医が適切な診療・処方を行います
図1に示すように、健康な皮膚は角質層と呼ばれる部分が厚く、防壁の役目をして、皮膚の奥の部分を守ります。角質層は表面の油分に保護され、ダニ、ハウスダスト、細菌などを通しません。一方、乳児(特に乾燥肌のアトピー体質の遺伝子を持つ赤ちゃん)では角質層が薄く、表面の油分も少ないため、皮膚が荒れやすく、ダニ、ハウスダスト、細菌などが皮膚の奥に侵入し、炎症を起こして皮膚が赤くなります。これが乳児湿疹です。そして炎症で皮膚の奥に生じたアレルギーの細胞が気管支に移動し、将来の喘息の発症に関連します。従って、乳児湿疹の治療とスキンケアは、アトピー性皮膚炎へ移行していくのを防ぎ、将来の喘息の発症予防につながります。図2に示すように、生まれてくる子の28%がアトピー体質ですが、適切なスキンケアと湿疹の治療によって皮膚が正常に発育し、9割近くの子が小学生の間にはほとんど症状がおさまってしまいます。
図1 バリア機能の意味
(『こどものアトピーによくみる50症例』南山堂刊より)
図2 アトピー性皮膚炎の有病率
1970年代と1990年代の比較。
この数十年で発病は増えていないが、治りにくくなっている
(『アトピー性皮膚炎の臨床』金芳堂刊より)
アトピー性皮膚炎の医療が混乱しています。とくにさまざまな民間療法や特殊療法が横行し、その誤った治療や情報によって大きな健康被害、金銭被害が続出しています。また、病院によって診断、治療がバラバラで、うまく治療できないことが背景にあります。これらを懸念して2000年(平成12年)に作成されたのが「日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」で、副作用を出さず、すばやく治す方法及び生活上の注意などが詳しく記載され、これに基く治療を行う医療機関であれば全国どこでも、日本一と言われる金沢大学皮膚科とほぼ同じレベルの治療を受けることができます。小児のアトピーでは重症の場合でも1~2週間、成人では1~3ヶ月で、ほぼ症状がおさまります。治療は皮膚に炎症がある段階では図3に示すステロイド外用薬のさまざまな強度のものから、その部位の皮膚の状態に最も適したランクの外用薬を選択して行います。そして、皮膚の炎症が完全に消えた後は保湿剤に変更し、皮膚の良好な状態を保てるようスキンケアを続けます。こうして正常な皮膚の発育を促し、角質層が厚く丈夫になり、症状が出なくなります。重症のアトピーの子で、痒くて眠れないケースでも第2群(ベリーストロング)ランクのステロイド外用剤を中心にした治療と、補助として最初の7日間痒み止めの内服薬を併用し、通常は7~10日で湿疹は消失し、痒みはなくなり、安眠できるようになります。そこで、保湿剤の外用に切り替えます。乳幼児期の早い段階で、十分な強度のステロイド外用剤で治療を開始して、皮膚の炎症を素早く、しっかりと消すことが重要で、その後の経過も良く、保湿剤のみのスキンケアに移行できる可能性も高く、喘息などの併発も防げます。外用剤の「ステロイド依存性」はお金もうけのためのアトピービジネスや民間療法などが流した誤った情報です。第2群のアンテベート軟膏は皮膚によく効き、皮膚から吸収され血液中に入った薬剤はすぐに分解され、全身の副作用を防ぐ、安全な設計です。プロペト軟膏は刺激が少なく、保湿力が高く、塗り広げやすい最も優れた保湿剤です。アトピー性皮膚炎の治療が外用剤で短期間でできるので、乳児の場合も含めて、原則として、厳格な食事制限は必要としません(狭義の急性型食物アレルギーである、じんま疹、呼吸困難、ショック等の患者さんを除きます)。腸の粘膜が未熟なために、卵、牛乳、小麦、大豆などのIgE抗体が陽性の子も、2、3歳を境に腸の粘膜が成長して、食物に対するアレルギーが起きにくくなります。ダニやハウスダストなどのIgE抗体は、繰り返す皮膚炎による2次的な結果です。
図3 主なステロイド外用薬の強さ
(『専門医がやさしく語るアトピー性皮膚炎』暮らしの手帖社刊より)
画期的な新薬であるプロトピック軟骨(免疫調整剤)は1999年に成人用、2003年に小児用が発売されステロイド外用剤を短期間使用した後にリリーフとして使用し、皮膚のいい状態を維持するのに適しています。(図4)(図5)16才以上で使用される0.01%プロトピック軟骨は、3群ステロイド外用薬に相当する効果があります。また2才~15才で使用される小児用(0.03%)プロトピック軟骨は4群ステロイド外用薬に相当する効果があります。長所として以下の4つが挙げられます。
図4 プロトピック軟骨の短所およびその対策しては以下の4つが挙げられます。
発売当初に懸念された悪性リンパ腫や皮膚ガンの発生の心配に関しては、発売後10年近く経過し世界中で多数の患者さんに使用されてきましたが、重い副作用の発生はありません。海外での悪性リンパ腫・皮膚ガンの「副作用発生報告」は報告した医師の単純な誤診によるものと判明したこともありプロトピック軟骨の安全性に対する信頼は年々増しています。(自治医科大学 大槻マミ太郎教授の講演より)
最強(1群)ランクまたはかなり強力(2群)ランクのステロイド外用剤を副作用を出さないように短期間使用します。
かなり強力(2群)ランクまたは強力(3群)ランクのステロイド外用剤を副作用を出さないように適切な期間使用します。
やさしい(4群)ランクのステロイド外用剤または免疫調整剤(プロトピック軟骨)を1日2回で開始し、1日1回で維持します。
保湿剤によるスキンケア一部悪化したときは1群~3群ランクのステロイド外用剤を悪化した部位に限局して3日~7日程度使用し、落ち着いたら免疫調整剤(プロトピック軟骨)または保湿剤による治療に戻します。
図6 アトピー性皮膚炎外用処方の原則
このように短い期間で容易にコントロールができるアトピー性皮膚炎が、なぜ「難治性」と言われているのでしょうか?それは、アトピーの子の多くが、最初に小児科を受診することから始まっています。残念ながら日本のほとんどの小児科医は皮膚科のトレーニングを受けておらず、ステロイド外用剤の使用法についての知識がなく、稚拙な使い方しかできません。そのため治らないのです。また、卵などの食事制限を必要以上に厳しくする傾向が、ベテランの小児科医ほど強く、患者さん母子に大きな負担と成長障害のリスクを与えています。一方、皮膚科の診療にも大きな問題があります。皮膚科医は多忙のため、アトピーの母子が来ても診療や説明に十分な時間が取れないこと、皮膚科医の中には患者さんを叫る医師が少なからずいること、子供嫌いの皮膚科医が小児の診療を拒否すること、小児皮膚科の知識・経験がなく小児の皮膚の診療が不慣れな皮膚科医がいること、日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドラインに基づく標準治療を行わず、自己流で実験的な「脱ステロイド療法」を行う皮膚科医がいること、金もうけのために「保険が効かない特殊な治療」を行う皮膚科医がいることなどです。小児科で治らず、皮膚科で不快な思いをしたアトピーの母子の多くが、民間療法や「特殊療法」を行う悪質な病院に流れて、多数の健康被害や金銭被害が続いています。脱ステロイド療法でアトピーが悪化し、母親に「おなかの中にいる赤ちゃんを私の代わりに大事にして」と言い残して、道路に飛び出し自殺した5歳の女の子の話や、民間療法で全身に毒性の強い物質を塗られて中毒死した4歳の男の子の話を知り、胸つぶれる思いになり、何度も落涙しました。この現状は打破せねばなりません。
専門医でない私がアトピー性皮膚炎の治療に精通し、成功したのは、ひとえに日本一のアトピー治療医である金沢大学皮膚科の竹原和彦教授のおかげであり、深く感謝しています。
また、脱ステロイド療法、厳格食事制限療法、民間療法などの不適切治療で失明したり、成長障害を来したり、亡くなられた子供さんたちに深い哀悼の意を表します。
アトピー性皮膚炎でお悩みの患者様およびご家族様へ